相続税申告が間に合わなかった場合

相続にまつわる手続にはいくつか「手続の期限」が設けられているものがあります。

 

たとえば相続放棄なら相続開始を知ってから3ヶ月、準確定申告なら4ヶ月、そして大きなものとしては相続税の申告・納付の10ヶ月という期間があります。それぞれの手続を怠ったり遅れたりすると大きな金銭的デメリットがありますが、特に相続税の場合は深刻な影響が及ぶことがあります。

 

では、相続税の申告期限とそれに間に合わない場合の対処、罰則などを見てみましょう。

 
☆相続税の申告期限とは
相続税は、被相続人(亡くなった人)の死亡を知った翌日から10ヶ月以内に被相続人の最後の住所地を管轄する税務署に申告・納付を行わなければなりません。10ヶ月とは長そうに見えますが、被相続人死亡後にしなければならないことの多さを考えると、驚くほどあっという間に過ぎてしまいます。死亡届、通夜、葬儀、香典返しの準備、49日法要くらいまで遺族の忙しさは並大抵のものではありません。よって、死亡から2カ月近く過ぎて初めて財産関係のことに着手できる状況になるのがむしろ普通ではないでしょうか。加えて、人によっては準確定申告もあります。

 
相続税申告のための準備として実際にやらなければならないことは、まず戸籍を収集して相続人全員を確定させることです(たとえ相続税が申告不要であっても戸籍一式はその他の相続手続でも使用します)。戸籍は市役所に行って取れば良いだけなのでは?と簡単に考えている人もいますが、多くの場合、必要な戸籍を1回で全部取り終えることはできないのです。なぜなら被相続人については最後の戸籍から遡って出生まで取らなくてはならないため転籍の前、婚姻の前、養子縁組の前などあらゆるものを順番に取っていくことになるからです。転籍などが多い人であれば被相続人だけで1ヶ月、2ヶ月かかることもあります。そして、転籍や婚姻などにより本籍地が変わっている人の場合、元の本籍地まで出向くか、郵送で取るしかないのです。郵送の場合、現金や振込で手数料を払うことはできず、定額小為替を購入して同封しなければならないなど、一般の人にとっては不慣れで面倒な手続きの連続になります。

 
こうして戸籍収集を進めると同時に財産や負債の調査をしますが、これがまた非常に大変なこともあります。相続人にすべての預貯金や株式、不動産等が明かされていたとは限らないため、遺品を調べていって可能性がありそうな銀行すべてに照会をかけたり、市役所の資産税課に行って不動産の名寄せ台帳を取ったりする必要があります。また、負債が残っている可能性がある被相続人であれば、相続人が「信用情報機関」に照会をかけて債務の全貌を明らかにしなくてはなりません(なお、負債が多い場合の相続放棄は相続開始を知ってから3ヶ月が期限ですから、その疑いがある場合は真っ先に負債調査をしておくべきといえます)。

 
このようにして財産と負債の整理が終わったら、自分たちには相続税の申告義務があるのかどうかを確認します。相続税には「基礎控除」というものがあり、一定の金額の相続財産を超えないのであればそもそも申告義務がないとされているのです。基礎控除は3,000万円+相続人の数×600万円となっていますので、相続人が3名の例ですと4,800万円となります。

 
その後、戸籍により確認された法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)によって遺産分割協議を行い、各人の取得割合に応じて具体的な税額が算出されることになります。ここまで来てようやく申告書を書ける状態になるわけですから、いかに事前準備が大変かということがわかるのではないでしょうか。もし遺産分割協議が終わっていない状態で申告期限を迎えてしまうと、いったん法定相続分で相続するものとみなして申告することになりますが、この時点では「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」など、相続人にとって有利となる特例が適用できないことに注意しなければなりません。

 

☆申告期限を超えそうな場合の対処法
相続税の申告期限に間に合わないことがわかったらどうすればよいのでしょうか。まともな手順を踏んでいたら明らかに間に合わないであろう場合は、とりあえず「概算金額」で申告を行っておくべきです。期間内に申告自体をしないと下記のとおりペナルティが発生しますので、それだけは避けたいところですが、いったん多めに税金を払っておいて後から申告内容を修正し、過大に支払った税額を還付してもらうという方法があります。ただし、これについては後から高い節税効果が得られるような特例を適用しても認めてもらえないケースもあります(「小規模宅地等の特例」や「農地の納税猶予」等)。

 
また、遺産分割協議が終わっていない場合でも申告期限を延ばしてもらえるわけではないため、上記に述べた通りいったん法定相続分で承継したものとみなして申告しておきます。申告期限後3年以内に遺産分割協議がまとまれば「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」を遡って適用して税額調整ができることもあります。ただ、この場合に注意しなければならないのは最初の申告時に必ず税務署に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておくことです。

 
☆申告期限が間に合わなかった場合の対処法
もし、実際に期限を過ぎてしまった場合はどうすればよいのでしょうか。この場合、下記にも説明しますが「無申告加算税」というペナルティが課せられます。ただ、これについては無申告に気付いて自主的に申告した場合と、税務署から指摘をされて初めて申告した場合で大幅にペナルティの割合が異なりますので、とにかく気づいたら指摘を受ける前に1日でも早く申告しなくてはなりません。

 
☆どの程度の罰金があるの?
まず、申告自体をしていなかった「無申告加算税」についてです。無申告に気付いて自主的に申告した場合は税金総額に対して5%となります。これに対して、税務署からの指摘を受けて申告した場合は税金総額50万円までの部分は15%、50万円を超える部分は20%となります。
たとえば払うべき税額が1,000万円だった場合は50万円までの部分は75,000円、それを超える部分(950万円)は190万円で、加算税の部分だけで合計197万5,000円にもなってしまいます。

 

また、相続税の納付期限は申告期限と同じく、被相続人の死亡を知った翌日から10ヶ月以内となっているため、無申告だった場合は無申告加算税に加えて納付が遅れたことに対する「延滞税」もかかります。延滞税は相続税の納期限の翌日から2月を経過する日までは原則として年7.3%、納期限の翌日から2月を経過した日以後は原則として年14.6%となっています。

 

もし、申告した税額が少なかった場合、「過少申告加算税」が課せられます。自分で気付いて自主的に修正申告した場合はペナルティがありません。しかし税務署からの指摘を受けて修正した場合は追加で納付した税額の10%の過少申告加算税が課せられることになります。追加納付金額が「期限内に申告した税金」または「50万円」のいずれか多い部分を超える金額に対しては15%が課せられます。

 
☆まとめ
このように相続税の申告期間は非常にタイトに設定され、申告し損なった際のペナルティも少なくありません。被相続人の生前から相続税の発生が見込まれる場合は、被相続人自身があらかじめ資産の内容を整理しておくことが大切ですし、相続人は相続発生後すみやかに動き出さなくてはなりません。相続税は計算方法が複雑である上に申告を間違えると大きなダメージを受けますので、申告経験が豊富な税理士に依頼したほうがいいでしょう。